第4回スポーツ外傷講義:肉離れ

*筋肉の構造*
筋肉の最小構造は、顕微鏡レベルでしか見えない「筋原線維」という線維であり、これらが集合した一つの線維を「筋線維」と呼びます。
筋線維はさらに集合して束を形成し、「筋線維束」となります。
そして、この筋線維束が多数集まりあって一つの「筋肉」となるのです。
これら筋線維束同士は、それぞれ膜で覆われており、その「筋膜」でお互いがくっついています。皆さんがお肉を食べるときに膜のようなスジが出てくると思いますが、それがこの筋線維束同士をつなげている筋膜です。
さて、こういった構造をしている筋肉の端はどのようになっているかというと、筋肉というお肉自体はなくなり、筋膜だらけの集まりとなり最終的に「腱」というスジに変わります。ここでいうスジは、先ほど申したお肉の中のスジと違って、牛スジ煮込のスジになります。
この腱が、関節を越えて骨にくっついているため、筋肉が収縮すると骨をひっぱり関節が動くのです。

*肉離れとは*
陸上競技やサッカー、テニスなどの競技をされていると、肉離れを経験された方はおられると思います。肉離れが発生しやすい部位は、フトモモ裏の筋肉である「ハムストリング」やふくらはぎの筋肉である「腓腹筋」ですが、肉離れを経験したことがある方もない方も肉離れがどういう状態なのかはっきりとご存じないのではないでしょうか。
筋肉のどの部位で損傷が起きているか、前述の筋肉の構造での言語を使って説明すると、肉離れとは「筋腱移行部付近」(筋肉が端で腱に変わるとこと)での「筋線維束間の組織の損傷」ということになります。おそらく筋肉の線維が切れると思われていた方が大半だと思います。学術的な細かなことを申し上げると、線維の損傷もあり必ずしも間違いではないのですが、基本的には線維が切れた状態ではなく線維束間の膜の損傷と考えてください。
この筋腱膜の損傷で出血し、腫れて痛むのです。

*どういった動きで発生するのか*
具体的なスポーツでの動作を挙げると、「踏ん張る動作」や「切り替えしの動作」の瞬間に発生します。つまり、前述で筋肉の収縮によって関節が曲がると申しましたが、関節を曲げるという筋肉の収縮時ではなく、関節が伸ばされ過ぎるのを抑えストップさせるといったように筋肉が引き伸ばされながらも収縮している際に、肉離れは発生します。このような筋肉の動きを我々は「遠心性収縮」と呼びます。この際は、筋肉が普通に収縮(求心性収縮)するときよりも大きなパワーが発生します。例えば、10kgのダンベルを持ち上げれることができるとします。それ以上の重さを肘を曲げて持ち上げることはできなくても、始めから15kgのダンベルを肘を曲げた状態で持たせてもらい、15kgを支えながらゆっくり肘を伸ばしていくことは出来るのです。このような遠心性収縮は、スポーツ中の動作で言うと、踏ん張りや切り替えしなどの動作で起きているのです。ですから、短距離でハムストリングに肉離れが発生する際は、走行中の脚を挙げた際ではなく脚をついた瞬間なのです。

*肉離れ時の所見は*
必ず、「押して痛い(圧痛)部位」があります。
その筋肉を「ストレッチすると痛み」が誘発されます。
また、その筋肉を収縮させるように「抵抗を加えると痛み」が誘発されます。

*現場での処置は*
急性外傷の基本である「①安静(Rest)」「②冷却(Icing)」「③圧迫(Compression)」「④挙上(Elevation)」を行います。
「受傷日、翌日は入浴で温めることは禁止」です。温めることにより出血がひどくなり、筋内圧が高くなってしまうコンパートメント症候群ということを起こしてしまう恐れがあります。

*治療方針*
肉離れと聞くと大した事無いと思い、きちんとしたリハビリや復帰プログラムを行わずに練習やプレーを続け困ってしまうのが、同部位に硬いシコリを残し長期間にわたりツッパリ感が取れないどころか、動いた後は必ず痛みが出たり、繰り返し同じ部位に肉離れが起きてしまうことです。これを我々は「線維性瘢痕」、「拘縮」といいます。
これを防ぐためには、初期にはしっかりアイシングを行い、その後超音波などにより組織修復を促しつつ、硬い組織となってしまわぬようにストレッチングを行っていきます。
急性期を過ぎた時点では、積極的に温熱を加えさらにストレッチングを行い、平行して復帰への筋力強化を行っていきます。

*復帰時期の目安*
上記のように、肉離れといっても簡単に復帰できるわけではなく、再発を防いだり後遺症に悩まされたりしないようにしっかりと完治させるには、軽症でも実は「3~4週」、重症例では「6週以上」ということもあります。それは、損傷で出血した部位において2週ぐらいまでは出血がじわじわと少量ながらも続いていたりし、その後やっと血のかたまり(血腫)の吸収が起きるからなのです。
選手の皆さん、たかが肉離れとなめずに、受傷後はきちんとしたリハビリを行い、再発防止に努めるようにしてください。