医師不足?

かなり久々にコラムを書くことになる。日々忙しくなかなかゆっくりと書く時間もなかったというのもあるが、書くとどうしても毎回のようにメディアや政治への文句になってしまうことに自分自身飽きたのと、やたらと世間ではブログが流行っているが、そこら辺のくだらないブログと一緒にされたくはないので、あえて書くのをお休みしていた。もう一つの理由は、実は昨年末からホームページをリニューアルする予定で作業を進めており、新しくなってから書こうと思っていたのだが、ズルズルとリニューアルが遅れてしまっているため、そのままコラムのアップも遅れてしまっていたのです。

新ホームページは、ゴールデンウィーク明けには公開できると思いますので、楽しみにお待ち下さい。

さて、表題の問題ですが、相変わらず仕様もない付和雷同コメンテイターが出てくるワイドショーやニュース番組で、最近取り上げられていることである。しかしながら、おそらく大抵の医師が何をいまさらと感じていることだろう。我々にとっては何年も前から、それこそ私たちの先輩の医師が若手バリバリの時代からの問題ではないだろうか。
必ずしも以下のようなことが毎週のように起きるのではないが、医師の典型的な激務の2日間を書いてみます。

入院患者さんの朝食時間にかからぬよう、朝7時から受け持ち患者の回診を済ませ、必要な患者には包帯の交換。その後、9時から外来に入り午後の手術が始まる直前の1時まで外来診察を行い、昼飯を食べる暇なくそのまま手術に。夕方手術室から出てきて、患者と家族に手術が上手くいったことを説明し、息をつく暇もなく看護士からその日問題のあった入院患者の申し送りを受け、必要あれば診察。入院患者全員の午後回診を行ない、翌日手術予定の患者と家族に手術内容の説明をした後は、その手術に備えもう一度レントゲンやCT・MRIなどの事前チェックと手術のシミュレーション。やっと飯にありついていると当直当番にて早速夜間時間外患者の診察。その後病棟でカルテを書いたり検査伝票の整理を行なったりしている間も何件かの時間外診察。やっと12時になり寝たかと思えば、深夜2時に救急外来。3時にもう一度寝床に着くと、明け方5時にも救急車。気がつけばチュンチュンと鳥のさえずりを聞きながら朝飯を食べるが、ゆっくりしている間もなく、残念ながら翌日は休みではなくそのまま前日と同じように朝の回診と外来から始まり、午後は手術ということが繰り返されるのである。

このような労働環境で、医療ミスを起こさないほうが不思議なのです。そのうえ、これほどの労働を行なったからといって特別な手当てが付くわけでもなく、当直は時間外労働とみなされないまま働いているのが実態であります。同じく人の命を預る責任を持ちミスが許されないパイロットが、ベストな体調を維持するため月の述べ乗務時間の上限を100時間とするといったような制限が設けられている労働環境とは大きく異なり、厚生労働省の推計では、病院勤務医の労働時間は月ではなく、週に平均約63時間、診療所いわゆる開業医で週に平均約54時間と言われています。あくまで、平均です。診療時間以外にも様々な仕事を行なわなければならないのです。勤務医の激務だけが取り上げられますが、開業医も絶え間なく外来患者を何十人と診察して疲労困憊でも、診療時間外は人件費を抑えなければならないため、自分で雑務をこなしているのです。

何年も前から、こんな過酷な労働をこなしながらも今まで医師不足が問題としてクローズアップされなかったのは、我々医師に、目の前の患者に尽くすという誇りと責任、そしてプロ根性があったため、どんなときでも患者を診ようとしてきたからなのです。国家医療費を抑えるために医師の絶対数が患者数に対して見合っていないこと、新臨床研修制度による医師の地域偏在、訴訟リスクの高い診療科の敬遠など、現在様々な原因が重なって医師不足問題が取り上げられるようになりましたが、一番の大きな原因は、医師が誇りをもって患者に尽くせなくなった医療萎縮の環境でしょう。救急のたらい回しといったことに代表されるように、医師は居るはずなのに十分な体制で診れない以上、何か訴えられては困ると、診療に対して萎縮してしまっていることが、医師不足という仮面で隠されているだけなのです。

このような萎縮医療の問題が表面上に大きく出てきだしたのは、福島県立大野病院の産科医がバカ警察により不当に逮捕されてしまってからのように感じます。一生懸命に医療を行った結果が、あのようなことになるのであれば、バカバカしくてやってられるかということなのでしょう。今のような診療報酬では、救急をやっても割が合わないと、救急をやらなくなった病院が増えていますが、本当は経営のことよりも、医師達の世間への抵抗のように私個人は感じます。
今の若い医師達には、自分の知識・技術に誇りとプロ意識を持って仕事をしてもらうことは難しいのかもしれませんが、厳しい労働環境にとても見合っているとは言えない金額でもボランティア精神で患者に対して一生懸命に働いている我々医師を敬うように、世間やメディアには協力してもらいたいものだと思います。でも、ボンクラな医者がバラエティ番組でヘラヘラしているようでは、無理ですかね。