「アメリカ医療録(その1)」 2006/12/26
マラソンで骨折なんて、まず聞くことのない話でしょう。だからといって、本当はホノルルの女の部屋に行っていたら、ごっつい黒人の彼氏が出てきたので、マンションの3階ぐらいから飛び降りて骨折したんじゃないかという噂話はなしでお願いします(笑)。あと、前回、自分一人の体ではなくなって・・・というのを読まれたからでしょうか。私に隠し子がいるのではという噂も出てきているようですが、これも勘弁してください(笑)。愛犬はいますが、隠し子はいないはずです。いや、いません!私がいなくなったら、患者さんも従業員も困るという意味ですから・・・。
体力と気力は残っていても、骨折という物理的にどうしようもない屈辱のダウン。ランニング中に骨折なんてあり得ない事ですから、周囲のランナーは脚がつって倒れたとぐらいにしか思ってないことでしょう。全員残り約10km、ゴールに向け走り去っていきます。ハイウェイでの転倒、側道にはボランティアの人達は誰一人いないし、完全に折れていて脚はぶらんぶらんですから、自分では全く動けません。が、ラッキーなことに何らかのイベントで数名走っている人たちをサポートしていた方が、側道にたった一人おられ、偶然私が倒れているのを見つけてくれました。すぐさま、エイドステーションへ向けレスキューを呼びに行ってくれたのですが、20マイル付近のエイドステーションのほうが近いのに19マイル付近のエイドステーションへ走っていってしまいました。おいおい・・・。待つこと約15分、折れた直後は何も痛くなかったのですが、だんだん腫れてきて痛みが出てきました。不幸中の幸いは、折れた大腿骨が皮膚を突き破って開放性骨折にならなかったこと。そして、動脈と神経を傷つけなかったことです。待っている間、自分で足先を動かしてみながら、よしよし神経は大丈夫と安心していました。アメリカンサイズのでっかい刺青オッサンが到着。当然、ランニング中に骨折なんてあり得ないハプニング。膝か?の質問から入ってきますが、太ももの骨であることを説明し、オッサンもその部位を触ってみてさすがにグラグラ動くし、膝ではなくその部分が腫れてきていましたから納得します。その次の質問は、当然でしょうが、転倒してどこかにぶつけたのか?面倒くさい!と思い、自分が医師しかもスポーツ整形外科医であること話し、骨折の発生機序を説明。オッサン納得して、救急車を呼んでくれました。その間、感心したことに普段何をしているオッサンなのか分かりませんが、きちんと私の足背動脈を触れ、足趾を私に動かすように命令し、神経・動脈の損傷がないかを確認してくれました。救急車が到着し、同じく救急隊員も神経・動脈の損傷がないかを確認し、大腿部をダンボール紙の簡便な固定具で固定してくれ運んでくれました。救急車内でも、なぜ骨折したのかの説明をしながら、病院でもまた同じことしゃべらなあかんねやろなぁと思い、病院到着。ホノルルの大病院、QMC(The Queen’s Medical Center)というところでした。ER(Emergency Room)に入りますが、テレビドラマのようにテキパキした感じはなくベッドに移され待たされます。日曜体制ですし、救急隊員からの報告で神経・動脈損傷がなくバイタル(血圧や心拍数など)が安定していれば、ERにすれば骨折ごときという扱いで後回しなのは当然です。待っている間に、同じく患者で来ていたヒスパニック系の可愛い女の子に声をかけられ、あぁ何回も同じ話は面倒くさいとか思っていたくせにこのときばかりはラッキーと、痛くてつらいくせにめいっぱいしゃべるしゃべる。でも、何故かこの女の子は手錠を掛けられ両脇にはポリスが付いていたので、さすがに電話番号は聞きませんでしたけどね。ナースがやっと来て、住所・氏名・生年月日から問診、バイタルをチェックしていきました。当然このときも、ケガしたときの状況を説明するのですが、俺ってこんなケガをしてるときまで最低な奴と自己嫌悪に陥りながら、先程とは打って変わって面倒くさい状態を露にトーク。このときもナースがきちんと足背動脈を触れるかと足趾が動くかのチェックをしていきました。その後に、事務系のスタッフが来て、再び住所・氏名・生年月日などなどを聞かれました。さっき言ったやんけと思いながら、アメリカならではだと感じたのは、諸々のことを聞いた後に保険に入っているかを聞かれました。ご存知かと思いますが、日本の保健医療と違い、アメリカは個々が医療費を給付してもらえる民間の保険に入っていなければ、高額な医療費を全額支払わなければなりません。ですから、患者が支払い能力のある者なのか、保険にきちんと入っているのを治療前に確認する必要があるのです。その後、また放ったらかしの数分が過ぎ、やっとドクター登場。ドクターといっても、ERに居てまず初めに患者を診るドクターは、日本でいう研修医。さすがに、ドクターは住所とか事務系のことは聞くことはなかったですが、再びケガした状況を話します。この研修医も、ちゃんと足背動脈と足趾の運動を確認して、やっとレントゲンのオーダーが出ました。転倒したのが、5時スタートの3時間後ぐらいですから、8時。病院到着が9時前ぐらい。やっとレントゲン撮ってくれるのが、なんだかんだと11時前になっていました。ここまで、到着からの病院スタッフの流れを読んでいて気付かれたと思いますが、業務が縦割りで全く連携しておらず、各自自分の仕事をするのみ。スタッフはいるのに時間はかかるという状態。レントゲン技師がやってきて、技師一人で私のベッドを押して撮影室まで連れて行ってくれます。これが、日本ならば、ナースも一緒に押して行ってくれるし、医者までもがナースに一緒に押して言ってよぐらいの文句を言われて押していくときもあります。レントゲン室では、技師が鼻歌交じりに撮影し始めるのですが、折れている脚を固定しながら痛くないように位置を変えて様々な角度から撮影するのをたった一人で行うため、3枚の写真を撮るだけで15分は費やしたのではないでしょうか。これが、ナースもドクターもいれば、5分で済むのですがね。さてと、撮影後もかなり待たされます。寝たいのですが、寒いし痛いし寝れません。しばらくすると、先ほどレントゲンのオーダーを出した医者とは別の研修医がやってきて、骨折であることの説明(分かっとるっちゅうねん)に加え、骨折部分が変だから整形外科医に相談するとのこと。それって腫瘍があって、その脆弱になっていた部分が折れたかもってこと?と聞くと、そういうことだとの返事。自分でレントゲン写真を見ることが出来れば、自分で診断できるのですが、どうやらアメリカも私が留学していたイギリスと同じで、医者には絶対的な権威があるのでしょう、素人に写真見せても分からないでしょ、私達プロが言うのだから間違いありません、てなもんで日本みたいにご丁寧にわざわざ患者に写真を見せて説明しようとはしません。そこで、この研修医にも私が整形外科医であることを伝えフィルムを見せてくれとお願いし、OKとの返事をもらうが、一向に帰ってこない。そうこうしているうちに、カルロス・ゴーンとペコちゃんをたして二で割ったような顔をした整形外科医がやってきました。整形外科医も骨折部位が変なのでMRIを撮って骨内部を確認すると言い出します。ここで、本当に腫瘍だったらどうしようと少し思いました。もう一度、この整形外科医にもフィルムを見せてくれと言ったところ、この病院では画像などもPCモニターで見るようになっているので、フィルムにして持ってこれないとのこと。画像所見を口頭で詳しく聞く限り、それって腫瘍じゃなくて疲労骨折の痕の所見でしょっと思ったのですが、あまりペコちゃんをいじめても仕方ないので、お金がかかるのを心配しましたが、保険出るから大丈夫かなと、MRIを撮ることを了承しました。当然、この後も検査に連れて行かれるまで待たされるのですが、ペコちゃんがまたやってきて、グッドニュース!と一言。レントゲンを再度見てみたが、骨の病的要素(腫瘍など)はなさそうなので、MRIは撮らなくていいよと。だから言ったろ!お前さては、この間上のドクターに相談しに行ってただろう!と思いましたが、そりゃ良かった!と乗っておいてあげました。ここで、やっと手術をする話になり、一番心配していた何時手術が出来るのか聞けば、今日だとの返事。よし!予定通り帰れると、思わずガッツポーズ!ほんとはゴールでするはずだったのに・・・。ということで、ERからやっと整形外科病棟に移してもらうことになり、手術を待つことになりました。といっても、病棟に移るまでがまた長くて、その間にまた別の事務員が来て、あれこれとあったのです。この事務員が、泊まっているホテルに連絡してくれたり、自分の友人に何とか連絡が付くようにいろいろと手配をしてくれました。携帯電話を持って走ってはいないので、番号が分からず結構大変でした。日本では、こういったことも場合によっては、看護だけを行なっていればいいはずのナースがしなければいけないこともありますが、こういう事務員もきちんといるのは、アメリカらしいと感じました。でも、ERに運ばれて始めのほうにやってきた事務員との違いは何なんだ?さっきの人がやればええがな、と思いましたがね。
転倒してから、ここまでのアメリカ医療に関する私の印象は、
良い点
*ボランティアでレスキューの活動をしているオジさんからナースまで、バイタルチェックや神経・血管損傷はないかなど、初期にチェックすべきルーチンワークの教育がきちんとされている。
*各自は各業務のプロとして、その業務に徹すればいい。とくに、医師やナースは日本と大違いでポジションが高く、まさに治療に関わる部分にだけ携わればよく、プロに徹することが出来る。(日本では、医者のやることが多すぎるし、権威もなく可哀相と我ながら改めて思った。世間では、病院や医者は稼いでいるという印象で、森本卓郎のようなポン助は、医者が最も金持ちとかアホなことをぬかしやがるが、日本の安い診療報酬では人件費を抑えて自分達でやれることはやらなければいけない経営状態で大変なのである。)
悪い点
*スタッフが多いだけで、連携は全くなっておらず、無駄な時間が多い。日本だと、良いか悪いかドクターやナースが一緒に即治療にあたり、事務系のことも同時に行なうことがあるので、事がスムーズに進むし、少なくともアメリカよりは連携ができている。
*日本の医療もそうだが、保険が医療費をカバーしてくれる以上、必要性の少ない検査まで行って、いかに稼ぐかが大事になっている気がした。
さて、病棟へ移ってから手術を受け退院するまで、このような印象を持った出来事はまだまだあるのですが、ここまででかなり長くなりましたので、この後から退院までの話は、また次回にしましょう。
平気なふりして徒然にケガ日記を書いていながら、実は結構ショックなのですが、あり得ないことを経験したことで、ある意味おいしい!しばらくこの自虐ネタは使える!と思ってますので、引っ張りますよぉ。
完全復帰に向けてのリハビリ日記も今後書いていきますので、よろしく。

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