「イギリス留学」 2005/01/23
毎年冬になると、イギリスの嫌ぁ〜な天候を思い出す。イギリスはこの時期もっと寒くて風が強く、この時期だけに限らないが毎日のように雨が降っている。旅行でイギリスに行かれたことがある方は、イギリスのいい印象しかないだろうが、実際に生活してみるといいことばかりではない。きっと海外で生活をされたことがある方の多くが思うことだろうが、日本ほど生活のしやすいところはない。
ところで、皆さんは医学の留学と言えばアメリカといったような印象が強く、何故イギリスだったのだろうとお思いでしょう。大抵の方から「イギリスは、スポーツ医学が進んでいるのですか?」と聞かれますが、特にそういうわけではありません。では、何故イギリスだったのか。
イギリスでは、卒後教育といって医師として働き出してからもきちんと教育を受けていかなければならないシステムがあり、この卒後教育を修学しMaster(マスター)の称号を取らなければ、医師としてのポジションが上がらないようになっています。イギリスの医師は、このMasterを取得するために1年間ほど完全に仕事を離れ、教育を受けなければならないほどしっかりしたシステムなのです。例えば、一人前の整形外科医になるためには、まず外科医の卒後教育コースにおいて手術の基本的なことを修学しなければならず、その後始めてメスを握ることができるといったように一歩一歩ステップを踏んでいかなければならないのです。日本では、その医師の努力次第では研修医のころからどんどん手術を行うことができるのとは大違いなのです。紙面上でしっかりとした教育を受けたが手術経験数の少ないイギリスの整形外科医と、手術経験は多く腕は達者だが頭が悪い日本の整形外科医、どちらがいいのかというと難しいですね。
話を戻して、私がなぜイギリスに留学したのかですが、このイギリスの卒後教育は外国人医師も参加できるうえ、なんと卒後教育のなかにスポーツ医学のコースがあったのです。そのスポーツ医学コースの教育内容は、私の考えるスポーツ医学に合致しており、スポーツ整形外科だけでなく生理学や栄養学、生活習慣病の運動療法などを含んだ総合学問でした。日本やアメリカにおいてはこれらを統括的に学べるシステムがなかったため、イギリスに渡り、1年間という短期間で集中的にこれらすべてを学んできたのです。
さて、「プロとは」のコラムで書いたように、ある結果を出すまでの過程というのが大事なのですが、私にも留学までの過程がありました。このイギリスの卒後教育、外国人医師も参加できるといっても当然英語能力がある程度の域に達していなければならず、IELTS注)において6.0以上でなければなりませんでした。そのため、その当時関東労災病院のスポーツ整形外科で働いていた私は、仕事が終わった後疲れきった体で毎日のように、神楽坂にあるBritish Councilというイギリス留学をサポートしてくれるところに英語勉強に通ったのです。大学生の頃からイギリス留学を考えており、その頃から英語の勉強は行ってきていたので、無事IELTS6.0をぎりぎりながらゲットでき、University of London Queen Mary and Westfield College(なんとも長いですが)の付属病院Royal London Hospitalが主催するスポーツ医学コースに入ることが出来たのでした。苦労して手に入れた留学の道、ヒースロー空港に降り立てば涙のひとつでもちょちょぎれるかと思いきや、何回か過去にも来たことのある空港、何にも感じなかったのが非常に悲しかった。
さて、肝心の教育内容は実際どうであったのか。年間プログラムがきちんと定まっておらず、何となく行き当たりばったりの教育プログラムのような感じはしたが、スポーツ医学をスポーツ外傷のことのみならず、生理学なども含めて総合的に学べ、現在役に立っているのは確かである。「日本の医療制度VS欧米の医療制度」で述べたように、日本とイギリスの診療の違いも見ることができ、非常にいい経験が出来たと思う。
イギリス留学は、本当に私にとって多大なことを与えてくれたものであった。それはプラスなことだけでなくマイナスなことも与えられたが、マイナスであったことも非常にいい経験であり、ある意味ポジティブにとらえることができる。具体的なマイナスを語りたくはないが、専門分野において競争し合うとき、人種差別は必ずあるのだと身をもって感じた。これは、同じようなことを経験した方でないと共感できないことであろう。
最近日本人スポーツ選手が海外でよく活躍するようになった。チームへのとけ込み方にいろいろあるとは思うが、見えない人種の壁というストレスを表に出さずに、しっかり結果を出している彼らは本当にすごいと感じる。特に私のように、目標に到達するにはどうすればいいのかと自ら考え、日本に居たころから地道に言語学にも時間を割き、イタリアで活躍している中田英寿選手は私が非常に尊敬する選手である。何度も言うが、結果までの過程が大事なのである。だから、結果を出している点では尊敬するが、言語まるっきしダメなのに活躍しているイチロー選手や丸山茂樹選手などを、実は好きにはなれない。
日本でも多くの外国人選手がプレーしているが、お客様選手という感覚でなく、彼らにも「日本語を話せなければ日本にはとけ込めないぞ」と思わせることが出来るのはいつなのだろうか?はたしてジーコが日本語を話すようになるのはいつなのだろうか(笑)?

注)IELTS:International English Language Testing Systemの略で、イギリスやオーストラリア留学の際に、英語能力を評価するのに用いられる。IELTS6.0以上は、なじみのあるTOEFLでいうと560〜600点以上と私のときは言われていました。でも、謙遜でも何でもなく私の英語力はそんなにあるとは思えない(笑)。

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