「第2回スポーツ外傷講義 : 足関節捻挫」 2004/11/15
はじめに
足関節の捻挫はスポーツで最も多い外傷(ケガ)で、バスケットボールやバレーボールでは外傷中の約50%が足関節捻挫といわれています。足関節捻挫で最も損傷を受けやすい靭帯は外側の靭帯です。皆さんは今、「あれっ、捻挫と靭帯損傷って同じこと?」って思われませんでしたか。診察していて感じるのは、皆さんが捻挫のひどいのが靭帯損傷と思っておられるようで、捻挫で来院された際に「靭帯が切れた」と申すとびっくりされることです。捻挫という言葉の定義は、「関節固有の生理学的可動域を超える外力が加わることにより、関節包や靭帯など関節支持組織が損傷した状態」となっています。分かりやすくいうと「関節が動く範囲以上に動かされたことによって、関節を安定させている靭帯が切れてしまうこと」ということです。ですから、医者に捻挫と言われても、靭帯が切れていると理解して下さい(但し、切れている度合いは3段階に分類されます)。それともう一点、よく「これは靭帯が切れているのですか?伸びているのですか?」と聞かれる方が結構おられます。実際手術の際に損傷した靭帯を見てみると(足関節の急性靭帯損傷に対する手術は近年あまり行いませんので、他の部位の靭帯ですが)、伸びたようになっています。しかし、これは靭帯線維の一部が切れて伸びたようになってしまっているか、もしくは完全に全部切れているかの違いで、たとえ線維の一部であろうと切れていることに間違いないのです。なので、伸びているという言葉で安心しないようにして下さい。まぁ、医者でも捻挫は靭帯損傷まで行かない軽いものって思っているような人がいますから、皆さん一般の方が靭帯損傷と聞かれて驚かれるのは仕方ないですよね。

解剖
足関節は、底屈・背屈(上・下)の動き以外に、内がえし・外がえしという動きをします。よく起こす捻挫は内がえしによる外側の靭帯損傷です。よって今回は外側のことについてだけご説明していきます。
外側には、外くるぶし(外果と呼ばれ、腓骨という骨の先端にあたる)から下の距骨という骨に向かって、@前方に前距腓靭帯(ぜんきょひじんたい)、A中間部に踵腓靭帯(しょうひじんたい)、B後方に後距腓靭帯(こうきょひじんたい)の3つの靭帯が走っています。

損傷の分類
損傷は、主に@前距腓靭帯とA踵腓靭帯に生じます。
下記の1度・2度は@のみ、3度は@に加えAまで損傷していると大まかに考えてもらっていいでしょう。
@だけの損傷は、全捻挫の2/3と言われており、また@とAの両方の損傷は足関節の靭帯損傷中20%と報告されています。
1度:靭帯の一部の線維の断裂で、関節包は温存されている。
(一般の方が「伸びている」と表現されるのは、これに当たると考えていいでしょう。)
2度:靭帯の部分断裂で、関節包も損傷されることが多い。
3度:靭帯の完全断裂で、関節包の断裂も伴う。

症状
1度:軽度の腫脹(腫れ)が外果の前方(@前距腓靭帯の部位)に起きるのみで疼痛も軽く、歩くのも少し困る程度です。
2度:かなり外果周辺に前方を中心として腫脹が生じます。受傷側に体重をかけるのがつらいですが、ガニ股だと何とか歩けるという状態です。
3度:関節内に出血が生じるため、関節全体が腫れます。外果前方(@の部位)と下方(Aの部位)の圧痛(押すと痛いこと)がかなり有ります。歩けますが、松葉杖を必要とされる方が多いです。

治療
1度と2度に対しては、まず手術を行うことはありません。
3度に関しては、中には早期に縫合手術をするべきと言う医師もいるようですが、何度も大きな捻挫を繰り返して慢性的に関節が緩くなってしまっているような方は除き、下記のように治療していくことで良くなっている方やスポーツに早期復帰されている方が多く、最近は手術をしなくなってきるのが現状かと思います。
荷重(体重をかけること):
適切な固定内で体重をかけていくことは何も問題なく、かえって靭帯に伸張を加えずに良いと考えられています。
早期の荷重と可動域訓練(関節の動きを取り戻すリハビリ)は、先々疼痛や筋力低下が少なく、スポーツ復帰が早いと報告されています。
固定:
完全に固定してしまうよりも、足関節の内がえし・外がえしのみを制限し、底・背屈を許可した装具などでの固定を行い関節の動きを出していくことにメリットがあります。
完全固定を行ったグループは、装具で治療したグループに比べ、3ヶ月でスポーツ復帰したのは50%であったとの報告があります。
アスレティックリハビリ:
腓骨筋といって足関節を外側に力を入れる筋肉を強化し、再発を防ぎます。
固有受容感覚といって、関節があらぬ方向へ行かないように、周囲の筋肉をうまく働かせて関節を適切な位置に保持する感覚をきたえます。いわゆる神経・筋の協調を作ります。
これには、バランスディスクなどを利用いたします。
復帰が近づくと、横の動きやジャンプ・着地に対応できるようなトレーニング・動き作りを行い、再発防止を行います。

復帰
当クリニックでの完全復帰(100%のプレー)までの大まかな目安です。
1度:10日〜2週
2度:3週〜4週
3度:5週〜7週

最後に
足関節を捻挫し病院・診療所を受診された際、完全に固定されたりすれば、その医師は新しいことを勉強していないか、診療費を多く取るために必要のない完全固定まで行っていると思ってください(注:例外を除きます)。こういうことが蔓延っているから怖いですね。たかが足関節捻挫と思いがちでしょうが、きちんと治療・リハビリを行っていないと再受傷を繰り返し緩くなってしまったり、痛みを残したりすることとなります。放っておかずにきちんとした病院・診療所に行き、きちんとした診療を行ってください。

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